フィリピンでの国際玉送り

あれはどうだったのだろうかと1年くらい疑問に思っていたことがあった。

わたしは、新郎も新婦も知り合いではないのにフィリピンまで行って結婚式に参列したことがある。
詳しく言うと、新郎はわたしの彼の高校の友人。新婦はフィリピン在住のフィリピン人。2人は新婦の母国フィリピンはセブ島で挙式を挙げることとなり、そのためわたしの彼が招待を受けたのだ。当初彼は「フィリピンだし参列しようかどうか迷っている」と後ろ向きな姿勢だったのだが、楽しそうだね行こう行こうと呼ばてもいなければ接点もないわたしが参加の意を表し、どさくさに紛れて出席させてもらったという訳である。

そのフィリピンでの結婚式では、挙式のあと夜には海辺で披露宴兼パーティーが行われたのだが、そのパーティーでのゲームが実にくだらなくて良かった。そしてそのゲームこそが1年近くあれはどうなんだろうと胸につっかえていた根源なのである。

ちなみに結婚式の様子を簡単に説明すると、奥様はフィリピン人ということで、新婦側の参列者は全員フィリピン人であった。新郎側は全員日本人。なのでフィリピン人と日本人がちょうど半々くらいの割合で出席していた。
フィリピンチームである新婦側は奥さまの親族の他友人の割合が多いため、参列者はほぼ若い女性。何故か皆ピンクのドレスを身に纏っていた。反対に日本チームは男性の参列者が多く、日本の結婚式のように皆スーツ姿であった。
パーティーでは新郎と新婦のファーストダンスというものがあり、終始いちゃいちゃしながら海辺でダンスする様子を皆で鑑賞した。
いちゃいちゃしたダンスが終わったかと思うと、海辺にセッティングされた大きなスクリーンにドローンで撮影されたセブ島がバーンと映り、その後スクリーン上に新郎と新婦が登場。再び新郎新婦がいちゃいちゃする様子を今度は新郎新婦も交えて鑑賞した。またフィリピン人の新婦がなかなかのべっぴんときたもんで、新郎としてはここぞとばかりに仲間に見せつけたかったのだろう、一切の笑いや恥じらいもなく、美人妻の腰に手を回しデレっと見つめる姿が印象的であった。緩みきった顔は溶け出すんじゃないかと思うほどである。でも本来結婚式ってこういうもんじゃないかなと思い、異国の結婚式は大変感銘を受けた。新郎新婦がご飯も食べる暇もなく出席者をもてなし気遣う日本の結婚式に疑問を感じていたからだ。おじさんの長い祝辞もいらないと思う。結婚式は当事者がイチャイチャする姿を周りはお酒でも飲んで温かい目で見守り、時々誰か歌でも歌って盛り上げればいいのではないだろうか。そんな気がした。
さて本題のゲームの話である。プレイヤーはあらかじめ決められていて、司会者に名前を呼ばれた人は席をたって皆の前でゲームに挑んだ。勝者には賞品もあった。残念ながらほぼよそ者であるわたしの名前が呼ばれることはなく、ゲームに参加することはできなかった。
第1ゲームは日本からは若者男性が5名、フィリピンからも若い女性5名が呼び出され、男女がペアになり日比ペアによるチーム戦が行われた。
ゲームの内容は、各チームにピンポン玉が1つ手渡され、日本人男性が頭の上で両手を組んで仁王立をし、フィリピン女性がペアの男性の右側のズボンの裾から先ほどのピンポン玉を入れ、股を経由して、反対側のズボンの裾からピンポン玉をだす。1番速かったチームが勝ち!という大変わかりやすいゲームであった。そしてわたしはまずここで疑問が浮かんだのだ。
(玉が股を経由するときに、触れないのだろうか。)
スーツって股上にゆとりが無いように思うのだが、大丈夫なのだろうか。20代前半であろう可愛いフィリピーナたちにそんなゲームをさせて嫌がらないだろうか。男性はみんなが見守る中通常モードを保てるのだろうか...
そんなわたしの心配をよそに司会者の合図で国際玉送りはスタート!フィリピーナ達は一斉にズボンの裾から玉を入れて手際よく玉を送った。誰一人恥じいや躊躇する様子はなし。ピンクの可愛いいドレスのことなどお構いなしに、みんな両膝を地面につけてテキパキと玉を送る。5人のフィリピーナからは気合が感じられた。そんな姿を見てわたしも「がんばれ!」と力強くエールを送る。
わたしの予想通り股上のゆとりの影響からか、折り返し地点でどのチームも玉の動きが悪くなり、苦戦している様子だった。玉の通りが悪い上に障害物もあるし、フェイクも2個くらいあるし、これは難関だ。日比のプレイヤーは皆ここが踏ん張りどころであろう。
「がんばれ!」の声援により力が入る。
勢いよく玉を通過させようとする者、ちまちまゆっくり玉を通過させる者。皆手を替え品を替え関門突破に励んでいる。
ところでわたし以外の観客はどのような表情でこの試合を眺めているのだろうか?怪訝な表情の者はいないだろうか。
目線を変えてあたりを見回すと、手を叩き腹を抱えて笑うフィリピン人の姿が目に移った。大ウケである。
(めっちゃウケてる...これはもしかしたらフィリピンの結婚式の定番のゲームなのかもしれない)
アツいぞ!フィリピンの結婚式!などと感心していると、難関を突破した後シュルシュルと上から下に玉を滑らせ見事左のズボンの裾から玉を取り出しゴールを迎えたチームが!勝者の2人はハイタッチをし、喜びを分かち合っているようだった。
しかし勝者が決まっても試合は続行し、なかなか関門を突破できない最下位のチームは否応無しに参加者全員から視線を向けられ2人のプレーは見守られた。
この視線での玉送り、あの人は大丈夫だろうか。
最後まで健闘した2人が見事ゴールを迎えた時には拍手喝采であった。
そして最後まで異国の地、フィリピンで活躍した日本人男性に「大丈夫でしたか!」と声をかけたい気もしたが、何しろわたしはほぼ部外者。心の中で彼に大丈夫でしたかを問いかけ拍手で健闘を讃えた。
このあとも日比対抗でゲームは続いた。次のゲームはフィリピンの女の子に目隠しをさせ、ペアの日本人男性が誘導して自分のヘソをあてさせるゲームであった。その後は日比で楽しむ国際伝言ゲーム。最終的にフィリピンの女の子に下品な日本語を言わせるという仕組みになっていて、たしかマイクで「鼻くそを食べたら美味しかった。」とかそんなようなことを言わせて、それをフィリピン語で通訳して女の子に「もぅ!やっだー!」といって皆で笑うという実にくだらないゲームの数々だった。しかし本当にみんな良い笑顔で、互いの言葉がわからなくても楽しい時間を共有できた素晴らしい結婚式だったように思う。フィリピンの結婚式はほぼよそ者も大満足な素敵な結婚式であった。 


そして、それから1年経ってもやっぱり気になるのは
「あの結婚式でのゲームはフィリピンでの定番なのだろうか」
「国際玉送りで女の子は障害物や違う玉を触らなかったのだろうか」 
「あのゲームで男性は反応しちゃったりしないのだろうか」
ということである。
あれはどうだったのだろう。
1人でふとした時に思い出しては忘れ、誰かに言うほどのことでもないと思って誰にも言わずにいたあの出来事。 
しかしある日の朝彼とフィリピンの結婚式の話になり、わたしは長年の疑問を彼にぶつけてみることにした。
まず彼は男性なので、反応しちゃたりしないかのかという長年の心配をぶつけてみたところ
「あのね、ゲームしていたのはみんな大人でしょ。中学生じゃないんだから大丈夫」
であった。 
小学生みたいなこと言わないでよと若干呆れた様子であった。
次に触れたかどうかについては当事者ではないのでよくわからないということで、ピンポン玉はないので小さなぬいぐるみで代用し、ゲームの再現を手伝ってもらうことにした。
ズボンがステテコでゆとりがあったこと、ぬいぐるみを使ったことなど完璧には再現できなかったが、それでもやってみた感想から「触った」ということで決着をつけることができた。
そして最後の疑問。あれはフィリピン式だったのか?である。こればっかりは2人で考えてもわからない。すると
「電話して聞いてみよう」
と現在奥さんと四国で暮らしているあの時の結婚式の新郎に、早朝に電話をかけてみることとなった。
「そこまでしなくても」とちょっと戸惑ってしまったのだが
「そんなことで1年も悩んでたんだから全部解決しなよ」
と彼は後押ししてくれた。
まず彼が電話をかけて簡単に近況報告をし、彼女が聞きたいことがあるらしい。ということで私に電話が回ってきた。
「おはようございます。朝早くからすみません。あのフィリピンの結婚式のことなんですけど、あれはフィリピン式の結婚式だったんですか?」
「そうですね、ファーストダンスはフィリピン式だよね。」
「あの時のゲーム、あれはフィリピン式なんですか?とても盛り上がっていたので日本でもやればいいのにと思いました。」
「あ、ゲームね。ゲームの内容はね。ゲームは、
俺が考えたゲームです」
「そうでしたか!いやとても楽しいゲームでした!はい、はい、はい、はい、じゃ今度四国に行った時に会いましょう!奥さんにもよろしく」

ピッ


新郎の趣味だった。