話さない女の子【前編】

幼稚園時代、仲良くしていた子が3人ほどいた。

そのなかの1人に彼女はいた。
彼女は喋ることをほとんどしなかった。
1つ学年が上の色白でやせた女の子。
大きな目でまばたきもろくにせずにじっと見つめる姿が印象的だった。

彼女は喋れないのではなく喋りたくないという意志のもと、ほとんど喋らなかった。どうしても話さなければならない時だけ、蚊の鳴くような声で必要な単語だけをぽそっ、ぽそっ、と発していた。
何故彼女は話さなかったのかはわからない。

わたしは、色白のやせた会話をしない彼女のことをこう思っていた。

か!かっこいい.....!

話をしない彼女の徹底ぶりに心底惚れこんだ私は、ある日私も彼女みたいにかっこいい女の子になろうと彼女の真似をして話さない女の子になった。

同じグループの友人は、そんな私のことをどう思っただろう。
前日まで普通に話していた友人が突然話さなくなってしまった。
メンバー4人中2人は話さない。グループの半分から言葉が消える。
わたしが友人の立場だったら、おまえは違うだろうよ。と怒り新党に発するところだ。

しかしわたしの友人はできた人間だった。昨日まで喋っていたのに突然喋らなくなってしまった私のことも、本家と同じように扱ってくれた。
全てお伺いをたててくれ、わたしが言葉を発さなくてもいいよう、友人2人は段取ってくれた。
そしてどうしても喋らなければいけない時、わたしも本家と同じように、蚊の鳴くような声で必要な単語だけを、ぽそっ、ぽそっと発した。
そしてわたしは思ったのだ。

話さない女の子、いいわー。ラクだわー。

わたしはすっかり味を占めてしばらく話さない女の子になった。

しかしわたしは飽きっぽかった。どのくらい話さない女の子だったかは覚えていないのだが、わりと早く切り上げ普通に会話するようになったと思う。

話さない女の子本家はというと、やっぱり話すことはなく、
1つ歳上の彼女は一足先に卒園していった。そして彼女とは疎遠になった。


つづく