オクラの思い出

側湾症という背骨がぐにゃぐにゃと曲がる持病を持っているのだが、24歳の時に手術をし、現在は背骨に複数のボルトが埋め込まれた状態で生きている。その手術は難産だったあの時の痛みと同等かそれ以上でしかも3週間くらい痛みでほぼ寝れずの状態だったので2度としたくない辛い思い出である。

術後は桶川胴のようなコルセットを風呂以外の時間身につけたままなので、寝返りも打てず、傷が痛くて踏ん張ることができないので便秘で苦しみ、眠ることもできないので精神的にも不安定な日々を過ごしていた。

そんな辛い人生の中で楽しみにしていたのが病院食で、三度のご飯の時間がくることが生きがだった。「今日のご飯はなんだろうか」と思ったときは桶川胴をつけた体を引きずるようにして掲示板まで向かい、今日の献立を確認した。今日の昼はムニエルで、夜は牛丼で、明日の朝はパンか。などと把握した後はよしよしという気分でまた桶川胴の体を引きずって病室まで戻っていった。

ある日の夕ご飯にオクラがでた。オクラに鰹節を和えたものがでてきたのだが、それをご飯と一緒に食べたところ非常に美味しく「う、うまい...」と声と肩を震わせながらご飯とオクラをかきこんだ。オクラを初めて食べたという訳ではなくオクラは24年間の人生で何度も食べていたのに、人類で初めてオクラを食べた人みたいに「うまい...!」と非常に感動したのを10年経った今でも覚えている。

それから数日後。いつものように桶川スタイルでヨロヨロ掲示板に向かうと、献立表の近くに「病院ででた好きなメニューを投票しよう」という掲示物と投票ボックスが置かれていた。毎日を辛く淡々と過ごしている私にとって病院食にランキングをつけるというイベントは生活に花を飾るような麗しいもので、心を踊らせながら投票をした。

またそれから数日後。今日の献立は何かなと掲示板に向かうと献立表の側に「みんなの好きな病院食投票結果発表」と書かれた病院食ランキングの集計結果の知らせが掲示されていた。見事1位となった病院食はたしかハンバーグで、あーそっかハンバーグはみんな好きだしおいしかたよねーなどと思いながら3位までのランキングをうきうきと眺めていた。目を端の方にやると「その他の人の声」と書かれた番外欄に「オクラが美味しかったです」という文章を見つけ「これあたしだ、これあたし」と術後一番のテンションで自分の意見が反英されたことを喜び、満足した気持ちでヨロヨロと病室に戻って行った。

そうして元気になった今、私が一番好きな食べ物は卵です。