オススメの歯磨き粉はなんですか

私が1番多くされる質問「オススメの歯磨き粉は何ですか」という質問。

私の血液型でも誕生日でもスリーサイズでもなく断トツで歯磨き粉のことをよく聞かれるのは、私のイメージが歯なんだと嬉しくも少し悲しくも思うのだがとにかく歯磨き粉のことをよく聞かれる。そしてだいたいその答えに対して「歯磨き粉より歯ブラシをこだわった方がいいですよ」と言ってうんちくを垂れ始めるのがおきまりなんだけど、最近、そもそもなんでオススメの歯磨き粉を知りたいのか聞いていなかったなと思い返す。

おすすめの歯磨き粉を知りたい理由は、たぶん現状より口内環境を良くしたいというぼんやりとした答えが多いんじゃないかなと思う。もう少しピンポイントなところだとムシ歯予防とか口臭が気になるからとかそんな感じだと思うけど、それら全ての理由でまず自宅でやるべきことは、できる限り口の中の歯垢を取って細菌の数を減らすことで、それには歯ブラシとかフロスで取る方法が最も効果的だと言われている。現在の化学では歯磨き粉でニュルニュルと歯垢が取れたりはしないからだ。

新しい歯ブラシを開けて歯磨き粉をつけないで1本1本の歯を鏡を見ながら丁寧に磨いてフロスをしっかりかけると驚くほど口の中がさっぱりする。歯磨き粉の力ではつるつるの歯が手に入らないことを実感できると思う。(つるつるにならない人はヤニや茶渋や歯石がついているので歯医者に行った方が良い)

「わかりました。じゃあオススメの歯ブラシなんですか」と聞きたくなった人がもしかしたらいるかもしれないので、そんな人には読んでほしい記事があるので貼ります。わかりやすい!

kakakumag.com

 

ところがオススメの良い歯ブラシを買ったとしても、いつまでも大事に使っていてはいけない。良い歯ブラシも1ヶ月もすれば消耗してろくに磨けない歯ブラシに変わってしまうからだ。

先日たまたまローランドのモーニングルーティンを見ていたら、ローランドはホテルなどに置いてあるような歯ブラシを使い捨てしていることを知った。「1度口に入れたものをまた入れたくない」というようなことを本人は言っていたのだけど、確かに一理あるなと思って見ていた。衛生的な観点だけではなく、新しい歯ブラシはよく磨けるからだ。でもローランドは多分全部の歯をフルクラウン(歯を削って冠せる治療法)で治していると思うから使い捨て歯ブラシだと毛が硬くてマージン(歯と冠せ物の境目)に毛先が当たらず、そこに歯垢が溜まって歯肉炎を起こしてそうだなと思って心配している。お金持ちだからもっと良い歯ブラシを使い捨てれば良いと思うけど、環境によくないからせめて1週間使ってもらうのはどうだろうか。それより使用済み歯ブラシが土に帰れば良いのか?などとローランドの歯と環境問題について悩ましく思っている。(ちなみに土に帰るフロスはあります)


ローランドのモーニングルーティン | Morning Routine of ROLAND

 

少々脱線してしまったが、なぜみんな歯ブラシやフロスより歯磨き粉のことが気になるんだろうと考えていたらあることを思い出した。

 

もう今は無いのだけど「FLOSS OR DIE」というサイトがあった。

このサイトは「国民にフロスと歯の予防に関心を持ってもらい、医療費の削減に寄与する」ことを目的とした非常に崇高でインテリジェンスなフロスの情報サイトだったのだけど、月々のサイトの運営費でパンを買いたくなってしまった主の意向で数年前に閉鎖されてしまった。その崇高なサイトの管理人が私であった。

 4、5年前の直向きにフロスの記事を書いていた頃。より信憑性があり国民の皆さまに積極的且つ安心してフロスを使ってもらえるようなサイトにするためにフロスの論文を探している時期があったのだが、論文を探す大事な理由はもう一つあった。

当時私は右も左もわからずサイトの活動をしており、もし「勝手なことをブツブツ言いやがって...医学的根拠だせこらぁ!」というようなことを言ってくる熱心な人がいたらどうしようかと怯えていた。この時、横の繋がりもないしインターネット界のケツ持ちみたいな頼りもなかったため、フロスの論文があればもうちょっと私の立場も強くなるのではないかと思ったのであった。

しかしインターネットで検索しても歯科大学の図書館に行って探しても、フロスの有効性を示す論文は見つからなかった。

ある日。職場の掲示板にとあるセミナーのお知らせが貼り付けられていた。そのセミナーは東京歯科大学の教授であり某大手企業が運営する歯科医院の病院長でもある先生の講義であった。フッ化物の応用と根面う蝕についてとの内容で、休日3日間の開催で参加費が5万円ほどであった。決して安い講習会ではなかったが、衛生学に長けた教授だし動物マークの企業の病院長だし、フロスの論文を知っているかもしれない。これで国民の皆さまとインターネットのチンピラに怯える私への安心が手に入るのなら5万円を払う価値があるかもなぁ!と思い、5万円を払って一人講習会に参加したのだった。

3日間の講習が終了し、さよならと参加者が続々と退出していく中私は片付けをしている教授に近寄り今回の大本題である問いを投げかけた。

「教授、私はホームケアにおいてフロスがとても大切だと思っているのですが、フロスの論文を教授はご存知でしょうか」

思い切って聞いたものの講義と関係のない話題をしたために教授が気を悪くしたらどうしようかと少し怯んでいると、教授は片付けの手を止めてわたしの方を見てこう言った。

「実は、ないんですよ」

教授は少し悲しそうな顔をしながら話を続けた。

「僕もフロスはとても大切だと思っています。みんなに是非使ってもらいたい。とても大事です。でもフロスがホームケアにおいて有効だという論文はないんですよ」

「な...なんでですか教授!」

あの時の衝撃は忘れない。我らがフロスの医学的根拠がないなんておかしい。フロスを定期的に行っている人の口腔内は見ればそれがわかるほど良好な状態であると私は臨床経験からヒシヒシと感じている。それなのに裏付けがないとはどういうことだろう。

落胆する私に教授は、教授のお人柄が滲み出たような優しい口調でゆっくり教えてくれた。

「お金にならないことは研究されないんですよ」

お金にならないことは研究されない。お金にならないことは研究されない。

お金にならずに研究されないことに5万円を投じてやってきた私は膝から崩れ落ちた。

その後、教授とLIONから出ているウルトラフロスという商品はいいですよねという話をしてその場を失礼した。

 

この時わかったことはどんなに良いことだとしても、お金にならないことは明るみに出ないということを知った。これが私の5万円の収穫であった。「医学的根拠だせこらぁ」とチンピラに言われても「なし」で乗り切るしかないことを知ったのだった。

フロスは本当に便利で、機能的で衛生的でコスパの良い道具だ。自信を持って言い切れる。

日本人がフロスを使うようになれば、口の病気の罹患率は減り医療費の削減ができると本気で思っている。お金にならないかもしれないけど、余計な税金を減らすことができることは意義のあることだと思う。

だけど世の中は歯磨き粉の論文は積極的に作って歯磨き粉のCMばかりを流す。歯磨き粉が大事というよりは歯磨き粉がお金になるからかもしれない。(もちろん歯磨き粉は大事だけど、歯磨き粉の前にもっとやるべきことがあると思う)

そうして国民の皆さんが歯磨き粉に無意識に意識がいくようになっているのかもしれない。

母は歯磨き粉では口臭が抑えられないことを何度か説明しても「このなた豆の歯磨き粉は口臭予防になるだろうか?」となた豆の歯磨き粉を買ってきていた。

 

歯磨き粉の市場を作っているのは歯磨き粉が売れるからなのだろうか、歯磨き粉が売れるように仕向けられているからなのだろうか、それはわからない。