昔から恋愛体質なのかわたしはわりと惚れっぽい。
若かりし頃は、犬も歩けば棒に当たるが如くわたしは歩けば恋に落ちていた。
これは高校生の時の話である。
入学して2、3日しかたっていない高校生活。たしか集会か何かで全校生徒が校庭に集められた時のことだったと思う。
集会が終わって校庭から教室に戻ろうとした時、下駄箱の出入り口の段差のところでワイシャツとズボンをだらしなく着たガラの悪い先輩が5人くらいでタムロしていた。
(あの人.....めっちゃかっこいい!)
そのうちの1人の先輩にわたしは一目惚れをした。
彼は亀梨和也をもっとイグアナに似せたような顔をしていた。
ちょっとガラが悪くて亀梨和也とイグアナに似たイケメンの先輩に、わたしは入学して3日でときめいたのだった。
そして入学してすぐに仲良くなった友達のたけちんに教室で報告したのであった。
「ね、ね、ね!たけちん!わたし、見つけた!心のオアシス!」
「心のオアシス笑?」
先輩の名前もわからなかったので、とりあえず亀梨和也とイグアナに似た先輩のことを「オアシス先輩」と呼ぶことにしたのだった(たけちんとわたしの中で)
やさしかった友達のたけちんは、
「さとみこんこん、いたいた!食堂にオアシス先輩いた!」
「さとみこんこん、いたいた!中庭のところにオアシス先輩いた!」
とオアシス先輩を見かけるたびにわたしに報告をしてくれた。そしてわたしはオアシス情報を聞きつける度に、オアシスを求めて一目散に走って見に行ったのだった。
「いた....!今日もかっこいい....」
口に手をあて物陰にかくれながらオアシス先輩を見ては心を潤わせていた。
そんなことを数ヶ月していたのだが、
ある時を境にオアシス情報はピタリと途絶えた。
まったく見かけなくなったのである。
(オアシス先輩最近みかけないな...)
オアシス先輩を見かけないままわたしは高校2年生を迎えることになった。
残念ながら仲の良かったたけちんとはクラスが分かれ、新しい友人達との生活が始まった。
2年生になったばかりの学年集会の時。
その学年集会に何故かオアシス先輩がいたのだった。
「え?あれ、オアシス先輩だよね?なんでいるの!?」
どうやら彼は出席日数が足りず留年となったようだった。
(ラッキー!前よりいっぱい見つめられるじゃん。)
わたしは彼を見てるだけで幸せ♡な割と謙虚な女子高生だったのである。
謙虚に見つめていた成果だろうか。
ある日、食堂で新しい友人3人くらいでごはんを食べていると、オアシス先輩と1つ上のガラの悪い先輩達がとなりの席に着席したのであった。
(オ、オアシス先輩....)
一気に箸が進まなくなってしまった。
固まりながらもなんとかごはんを食べてるわたしに、なんと
「髪、綺麗だね。」
とかなんとか言ってオアシス先輩が話しかけてくれたのだった。
この時わたしは頭が真っ白になってしまい、よく覚えていないのだが、最後に
「ねぇ、番号教えて。」
と言われたのであるキャーーーーーー!
その様子をみてガラの悪い先輩達はニヤニヤしている様子だったが、そんなことも気にする余裕もなく震えながら番号を教え、授業が始まるのでオアシス先輩と別れて教室に移動した。
「連絡するから」
食堂を後にするわたしにオアシス先輩が声をかけ、にっこり笑いかけてくれたのだったキャーーーーーー
オアシス先輩は約束通り連絡をくれ、わたしはオアシス先輩とのメールのやり取りが始まったのであった。
最初はメールだけであったが、仲良くなると、オアシス先輩と放課後に待ち合わせをして一緒に帰ったり、カラオケに行ったり、先輩と一緒にいる時間は増えたていった。
すると留年した怖めな奴とさとみこんこんが一緒に帰っていた!という噂は広まり、
「そうなの?」と友人に聞かれては
「やだーなんで広まっちゃてんの?」(もっと広まれ)
と思ったり、
「付き合ってんの?」と友人に聞かれては
「やだー付き合ってないってば!」(その予定)
と思ったり、非常に楽しい学園ラブロマンスをわたしは送っていたのだった。
ある日の帰り道、今日もオアシス先輩と途中まで一緒に帰っていた。
「俺の仲のいい奴がいて、そいつに誰か紹介したいんだけど、だれか可愛い子いない?」
「あー。わかりました。声かけてみますね。」
オアシス先輩の頼みならなんでも聞きますわたしは従順ですから。の意気込みで、わたしはミッションに挑んだ。
「前に同じクラスだったK子がいいかも。」
背が小さくて色が白くて目がぱっちりしているK子に声をかけてみた。
そしてオアシス先輩の友達にK子を紹介した。
先輩の友達は、すっかりK子を気に入ったようだった。ミッションは成功である。
さらにK子も満更ではなさそうだったので、我々は4人でディズニーランドに行くことになったのであった。
憧れのオアシス先輩と一緒に行ったディズニーランドは、まさに夢の国のようであった。浮かれていたせいかこの時のこともあまりよく覚えていないが、とても楽しかったことだけは覚えている。
そしてK子とオアシス先輩の友達は一緒に行ったディズニーランドの後、お付き合いがスタートしたのであった。
オアシス先輩とわたしはというと、ディズニーランドが終わったら、中間テストの勉強を一緒にしようと約束していた。
ディズニーランドに行く前に、次の土曜日は一緒に勉強するという予定になっていたのだ。が、しかし
「ごめん。土曜日都合が悪くなった」
とメールが入ったのだ。
じゃあいつにする?と返信すると、
「忙しいから無理かも」
との返事。
おかしい。オアシス先輩の様子は明らかに素っ気なくなったのだった。
要は避けられ始めたのだが、乙女心としては信じたくないのが心情。
もう相手がこのようになってしまった時は潔く身をひくのがベストだということは経験上今ではわかる(たぶん)
半年から数年すれば、ヤレそうでヤレなかった ないし ヤラなかった相手というのはふとした瞬間に思い出され連絡をしてみるものだ(わたし調べ)
しかしわたしの知能は待てのできない犬みたいなもんなのでいっぱいメールを送り、「あの時のあなた、戻ってこい」と必死になっていた。
しかし、悲しいかな、わたしは無視をされるようになり、オアシス先輩から避けられるようになった。
気の弱いわたしはたいそう落ち込み、これ以上オアシス先輩に迷惑をかけてはいけないと決め、わたしもオアシス先輩を全力で無視をすることにしたのだった。
その結果我々は高校卒業するまで1度も話をすることはなかった。そして、会話もしないままそれぞれの道へと進んだのだった。
オアシス先輩との学園ラブロマンスの話は以上である。
数年後。
5年以上はたったであろうある日のことである。
成人をとうに超えたわたしは、高校時代の友人 ゆきちゃんと飲んでいた。
そして飲みながら話していると、高校時代の話になったのだった。
「さとみこんこんってさぁ、留年した先輩といい感じだったときがあったよね?」
ゆきちゃんが、オアシス先輩の話を始めたのであった。
「あった!あったのよ、好きだったのに付き合えなかったんだよね。」
「わたしなんで付き合えなかったかしってる。」
ゆきちゃんはニヤニヤしながら言った。
「!!?!!」
「なんで?!なんでゆきちゃんが知ってんの?」
「K子にきいた」
「K子情報!それは信憑性が高いわ!」
「え?なんでなんで?おしえて」
いいよ。
といってゆきちゃんは何故か低い声のトーンでゆっくり話しをはじめた。
「あのさ、ディズニーランド行ったんでしょ?4人で。」
「うん、行った!行った!」
「そのさ、ディズニーランドでさ、さとみこんこんがさ、
鳩を追いかける姿をみて引いたらしいよ。」
「......。」
「は?」
「だから引いたらしいよ。」
「鳩で?」
「うん、鳩。」
「フラれた原因は鳩?」
「そう、鳩。」
「鳩...そう、そうなんだ。」
どうやらミッキーにもミニーにも目もくれずわたしはディズニーランドで鳩を追いかけていたらしい。
覚えていないが今でも鳩がいれば追いかけるのでたぶん熱心に追いかけていたんだと思う。
「で、でもふふっ、わたしは、ディズニーランドで、鳩をふふっ必死に追いかけてるさとみこんこん、ふふふ、可愛いと思うよふふふ」
なぜか笑いをこらえながらゆきちゃんはわたしのことを慰めてくれた。
「ありがとう。わたしもそんな自分は良いと思う。」
高校生の淡い恋は鳩を追いかけた結果、夢の国で消滅したのであった。
鳩を追いかけたことだけが原因な訳じゃないとは思うが、トドメを刺したのはおそらく鳩。鳩は幸せの象徴だったはずだが、わたしは鳩のお陰で不幸になった。
でも。
むしろ嫌われた原因が鳩でよかったのかもしれない。原因は鳩。とわかったことで「けっ、小さい男」と思えたのも事実。やっぱり鳩は幸せの象徴かもしれない。他のことが原因だったらそうは思えなかったかもしれないからだ。
そしてわたしは考えを改めることもなく、今現在も鳩を見かけると走って追いかけている。たぶん一生そうだと思う。
ちなみに、オアシス先輩。
卒業して2年後くらいにメールをくれたのだった。遊ぼうと連絡をくれたのだったが、予定が合わなかったか何かで結局会うことはなかった。
上記のわたし調べのヤレソウでヤラナカッタ奴には連絡する説はあながち間違ってはいないと思う。
最近あの人ったら冷たいわ〜なんて
意中の人が素っ気なくなったと感じたら、是非潔く身を引いて半年ぐらい気長に待ってみてほしい。おすすめする。
ただなかなか有効な手段だと自分では思っているのだが、
本人は鳩でも前を通れば追いかけたくなる狩猟本能が高い点や、待てのできない犬みたいな知能であることから
そんなことができた試しはほとんどないのである。