美容室にて

先日、2ヶ月の子供を夫に預けて久しぶりに美容室に行った。数年通っている美容室なのだが、その美容室は担当の人は洗髪はせず、アシスタントの人がやってくれる。アシスタントは何人もいて適当な人が充てがわれるため毎度違う人が洗髪してくれるのだが、こないだ洗髪をしてくれた若い彼は「お子さん預けてきたんですか?」などと世間話は簡単に済ませ、黙々と髪を洗ってくれた。基本的に美容室でダラダラ話かけられるのは嫌いなのだが、一番嫌なのがシャンプー中に話しかけられることなので、熱心に洗髪に取り組んでくれる彼には好感が持てた。そしてさらに驚くことに、彼はシャンプーをした後にヘッドマッサージをしてくれたのであった。いつもそんな事されないのでこれは彼の気配りと思われるが、手際よく気持ちがいい。上手なのだ。「出産後忙しい中やって来た客」への気配りとして、あまり話しかけずに洗髪し、頼んでもいないマッサージまで施してくれたとしたら素晴らしい。心身共に疲弊したおばさんはアシスタントではあるがプロフェッショナルな彼の行動に感動し、その気持ちを伝えたい。そう思ってしまった。ここがアメリカなら真心込めてチップを支払うところだがここは日本である「君、いいよいいよ」と現ナマを渡されても気持ちが悪いだろうし、どうしようかと考えた結果普通にお礼をいうことにした。

シャンプーが終わり、髪をタオルで包んでもらった際にアシスタントの彼に垂直な思いを伝えた。

「あの、マッサージ気持ちがよかったです。ありがとうございました」

マッサージ気持ちがよい。何故だろう。事実だけど言葉にするとすごく気持ちが悪い。若い男性に言うべき言葉じゃなかったかもしれない。若者の親切を心に刻んで壮年期は余計なことを言わず黙っていればよかったのだろうか。

後悔の念に駆られていると「あ!ありがとうございます」と笑顔の若者。本心はわからないが、声かけに喜んでくれているようにも見えた。

そうして若者は手際よく私の首元のケープを外して笑顔で言った。

「頭、ガッチガチでしたもんね!」

頭ガッチガチ。何故だろう。多分事実。頭ガッチガチな気はしてなかったけど多分事実。頭ガッチガチだったおばさん。おかしい。マッサージまですごくいい気分だったはずなのに、お礼を言ったあたりから心がざわついている。あれ?言わなきゃよかったのだろうか。

そうしてアシスタントの彼は私をカット台に誘導。椅子に座らせ肩をマッサージしてくれた。肩のマッサージは店のサービスとして毎度やってもらっているのだが、どうやら私の声かけに自信を持ってくれたらしい彼は

「うわぁ....!!!肩もガッチガチですね!!!」と嬉しそうに肩をゴリゴリ揉んで頭だけではなく肩の凝りもほぐしてくれた。おばさんは頭も肩もガッチガチであった。彼は肩のマッサージも上手で気持ち良かったが、何故か私の心には小さなしこりができてしまったのであった。