ほくろと小杉

口元にあるホクロはセクシーなんて言われるが、セクシーのセの字の恩恵も受けていないのに私の口の周りには2つもホクロが付いている。この2つのホクロ、小学生のころはすごくコンプレックスであった。

「口元のホクロはセクシー」というよりも「口元のホクロは食いしん坊」との認識が強く鏡を見るたびに口元のホクロ→食いしん坊→卑しい=小杉 の方程式が成り立って嫌気がさしていた。

小杉とはちびまる子ちゃんに登場するまるちゃんの同級生である。小杉はとにかく食い意地が張っており、食べ物に対する執念が凄まじく見る者を不快にさせるキャラクターである。インターネットで「ちびまる子ちゃん 小杉」で検索をすれば「ちびまる子ちゃん 小杉 クズ」が関連ワードに出てくるほど嫌われている男、それが小杉である。

食いしん坊ほくろがついている。しかも2つも。「よく食べる女・卑しさ2倍・小杉」と鏡で自分の顔を見る度に食いしん坊のキャッチフレーズが飛び交った。食いしん坊でなければホクロも気にならなかったのかもしれないが、現にわたしは食いしん坊だったため、周りの人から小杉だと思われていないだろうかと気にしていたのであった。

せめて食いしん坊ほくろが1つだったらここまで落ち込まないのに。鏡を見てそんなことを思っていた時にいいことを思いついた。ほくろが嫌ならほくろを取ればいいと。

思い立ったら吉日、わたしは女性用顔そりで自分のほくろを1つとってみることにした。頰を膨らませ、ほくろをカミソリで削いでいくと、ほくろの周りから血が滲み出した。痛い。涙を浮かべながら鏡の中を見つめる。小杉...

ほくろはしぶとくなかなか取れなかったが、ここで止めたらなんのために血を流しているのかわからない。卑しい称号はもう嫌だ。鏡の中の自分を見つめながら小杉を思い出し活を入れると、中途半端に削がれたほくろを手でつまみ引っ張った。痛い痛いと思いながらじわじわ引っ張ると食いしん坊ほくろはポロリと取れた。取れた。ほくろが取れた。嬉しい。ほくろが取れたあとの皮膚はピンク色に陥没したようになっていた。ヒリヒリと痛みがあったが小杉から解放されたことが嬉しくてそんなことは気にならなかった。

それから数週間後。わたしの食いしん坊ほくろは再発した。どうやらほくろというのは表面上の問題だけではなく、皮膚の深部にもほくろの要因があるらしい。あの流血はなんだったのだろうか。また鏡を見るたびに小杉を思い出す生活が始まってしまい落ち込んだ。

しかし月日が流れると歯が邪魔で口が閉じない、鼻の穴が大きい、顎に梅干し、首がない、眉毛が毛虫などティーンエイジャーは大忙しで小杉どころではなくなり、ほくろが気にならなくなった。

そして現在は食いしん坊ほくろ2つ分の食い意地を使って皿までなめる勢いの食欲を日頃発揮している。その甲斐あってなのか、最近わたしの唇に新しいほくろが誕生し食いしん坊ほくろは3つになってしまったのだった。