誕生日の日に

先日31歳の誕生日を迎えた。わたしは割とイベント事に気合を入れて気持ちを高ぶらせたい人間なので「自分の誕生日」これは盛り上がらずにはいられないのである。
起床は5時だ。誕生日をちょっとでも長く生きるために5時から活動をした。まずブログを書いた。フィリピンの結婚式のエピソードを書いた。下ネタの記事を誕生日の日に書いた。満足である。
自分の所属するサイトの記事も書き進める。31歳になってもせっせと記事を書く。時々いつまでわたしは書いてるんだろうという気にもなる。何か起きるのかな?って思ったり何も起きないかもなって思ったり。好きで書いてるんだぞ!って思ったり。
けれども30歳で始めたブログの活動はいろんなことが起きたように思う。2つのサイトに所属することができたし、やったぞ!という感じもする。
「今年の抱負は素人の研究社で4、ハイエナズクラブで3つの記事を書こう」という具体的な目標をたててみた。わたしの座右の銘は「自選は頑張る」である。やりたいと言って入れてもらったんだから頑張ろう、そう思う。あと自分のフロスブログも再開して、iDeCoも始めて老後に備えていくことも決めた。

誕生日を充実させるために行きつけの美容室に行って担当のあやかさんにパーマをかけてもらった。あやかさんは技術も上手なのだがコミニュケーションの取り方も私好みなので気に入っている。
なかなか茶色いわたしの髪にパーマがかかる。仕上がりはトイプードルみたいだった。
「今回もよくかかりましたね!フワフワ〜!どうですか?」
「トイプードルみたいですね」 
基本的に思ったことを言ってしまう性分で自分のことをトイプードルと言ってしまった。身長162センチ足のサイズ26センチの31歳の壮年期が自分のことをトイプードル。若い子に自分のことをトイプードル。少々後悔した。
「....トイプードル....」
あやかさんは低い声で呟いていた。けれどもその後
「もうトイプードルにしか見えません」
わたしの髪をセットしながらボソッとあやかさんが言った。やっぱりあやかさんはいいなぁとあやかさんの良さを再確認し、またあやかさんのことを指名することを誓って店から出た。

その後、結婚式の引き出物のカタログギフトの中に良い店で良い肉を食べられる券があったので、それを利用して良い肉を食べに行った。丸ビルの36階あたりで食べる肉である。きっと美味しいに決まっている。
店につくと1番窓際の席に案内された。窓掃除の苦労を想像してしまうような立派な大きな窓。そこに広がる東京の景色。晴れていたら絶景であろうそこからの眺めは、生憎の雨天でせっかくの展望は薄暗くよく見えなかった。時々何をしに来るのか36階まで鳥が遥々飛んできて止まった。そんな鳥の姿をみて「鳥だ!鳥だ!」と鳥を見て興奮をする壮年期。鳥がやってきただけで喜ぶわたしはまぁまぁいい奴だと思う。
コース料理だったので、肉料理が順々に運ばれてきた。彩が美しい前菜からはじまり、ローストビーフのサラダ、和牛の寿司などが運ばれた。和牛の寿司は口に入れた瞬間から美味かった。テレビでよく噛む前にうまい!という人がいて、何をおっしゃると思って見ていたが、まさにそれになった。口に入れた瞬間美味い。あれはきっと本心だ。
この時点で結構お腹がいっぱいで、たとえここで帰っても大満足という気分だったが、メインはこれからだった。和牛のステーキが運ばれてきたのだ。
皿にドンと乗ったステーキ。これがまたジューシーで柔らかく、噛めば噛むほど肉汁がでてお腹に溜まっていく。
一切れ食べ微笑み、二切れ食べ米はまだかと煽り、三切れ食べたあとやっぱ漬物が1番美味しいね!と米のお供にでてきた漬物に感激し、そうして和牛から目を背けていった。
歳だ....
ステーキは間違いなく美味しかったし、滅多に我が家では食べない高級和牛だから最後まで食べたかった。しかし口に運ぼうとすると体が拒否反応を示す。このまま口に入れたら全てを台無しにするぞ。わたしの消化器からやめろと叫ぶ声が聞こえる。
まさか自分が人並みに和牛を食べられなくなる日が来るとは思わなかった。これが老というやつですか。肉食!と自分で言うほど肉が好きなはずなのに。悲しいやら悔しいやら。そういえば寿司もトロとかウニとかこってりしたものが好きだったけど、今一番好きなネタはヤリイカゲソだしこういうところから歳を取るのだな。とやるせない気持ちがわたしを襲った。
そしてわたしは思ったのだ。体は限界だけど心は和牛を欲している。持ち帰ることはできないだろうか。
半分は残っている和牛。どうせ捨てられるのだから持って帰りたい。
手始めに「このステーキ、サンドイッチに挟んだら美味しいだろうに」と爽やかな声色でブツブツいってみた。反応はなかった。「残ったお肉は持ち帰ることはできないだろうか。あ、でもそういうのって衛生状の問題でできないんだってね、店の人が勧めてくれたら持って帰ることができるみたいだけど」
丸の内36階で直球を投げまくる。誰も気づかない。
最終手段に移る。
半分残っていると店の人も下げるに下げれなかったようで、そろそろと近寄り「お腹いっぱいですか?」の声がわたしにかかる。
わたしは待ってました!の勢いで、
「そうなんですぅ!すっごい美味しくて、もっと食べたいんですけど、お腹いっぱいで、食べれなくて....本当に残念で残念で食べたいんですけど」
めっちゃ食べたいアピールをした。言ってくれ、店員さん!あの言葉を!
「あら残念ですね〜」
そういうと店員さんは御膳をさっと持ち上げてその場を後にした。店員さんに連れられわたしの和牛も去っていった。お太鼓結びの店員さんの背中をわたしは目で追った。ドナドナドーナ...切なさが襲う。

このようにして今年の誕生日は過ぎ去った。今年の誕生日もなかなか思い出深いものとなったと思う。
31歳の誕生日の日に学んだことがある、それは「欲はある時に全力で使う」である。
また新しい座右の銘ができた。
やりたいと思ったことは全力でやらないとやりたくてもやれない日が来るだろう。そんなの知ってると思っていたけど、誕生日の和牛から身をもって痛感したことだ。持ち帰ることができなかった丸ビルの和牛。悔しい気持ちでお別れした和牛。しかしわたしは違う形で和牛を持ち帰ることかできた。そういうことにしておく。