超普通人間の試み

(介護士の女の子がVICEにでてる!なんでVICE にでることになったんだろう。VICEがクラブで見つけてきたのかな。)

2016年12月。
ニッチな世界の人脈形成は全てクラブでてきていると勘違いしているわたしは、この時VICEのインタビュー記事を齧りつくように読んでいた。
その訳は介護士とVICEにあまり接点を感じていなかったからだ。
しかも介護士のインタビュアーは、バンドでボーカルもやっているらしい。おまけに介護士の仕事もやりたいと思って就いて、さらにやりがいも感じて仕事をしているようであった。とても素敵なインタビューだった。
こんなcoolな介護士を見つけてくるなんてさすがVICEと思いながら、携帯の画面をスクロールしていくと、この企画のインタビューアーの募集に辿り着いた。
自薦他薦は問いません。
なるほど、この子はクラブでVICEに発掘された訳ではなかったということか。

自薦でもいいなら....わたしもやってみようかな!VICEにインタビューなんて生きてて絶対されないだろうし。

「こんなわたしでよかったら是非インタビューアーにお願いします。」

簡単なあいさつを添えて自薦応募したVICEのインタビュー企画。
そしてこんなわたしにすぐにVICEは返事をくれたのであった。
「是非インタビューをお願いします。急で申し訳ありませんが、早速来週か再来週でいかがでしょう。」

トントン拍子で話は進み、応募した翌週にわたしはVICE Japanにお邪魔することになった。
こんなあっさり決まるとは。この企画...人気ないな。

さてインタビューは決まったけれど何を話そう。喋るのはとても苦手なのにどうしよう。ちゃんと喋れるだろうか。
そもそもこのインタビュー企画、わたしは介護士のインタビューを読んで初めて知った企画だったので、まずは他のインタビュアーがどんなことを聞かれ、どんな風に話しをしているのかを確認した。
小さい時の話から学生時代、現在どんなことをしているのかを語り、さらに初恋から初体験の話まで語っている人もいた。

(え?初体験の話まで聞かれるの?介護士の人はこんな話してなかったと思うけど...)

不安だ、実に不安だ。

そしてインタビューを読み漁っていくとたどり着いたのは「くんぺい君」という男の子の記事であった。わたしにとってくんぺい君はかなり強烈であった。

(なにこの変な子....面白い。ていうか超普通人間のわたしがVICEのインタビューを受けてよかったのだろうか....なんか自信無くなるからもう人のインタビュー読むのやめよう。)

自分に自信を失いつつも、インタビューに対する意気込みは十分だったわたしは、次にVICE Japanのインタビュー記事を読み漁り始めたのだった。代表の佐藤ビンゴ氏がどういう意識でVICEを運営しているのか。何を大切にしているのか。様々な記事に目を通し何回も読み込んだ。
くんぺい君みたいに面白い人間では決してないから..せめてなんかVICEが求めているようないいことを言わなきゃ!
わたしは何故か必死だった。
そしてVICEの記事を読み込んだ結果、わたしが重要だと思ったキーワードは「公益性」であった。ただヤバイというだけではなく、より公益性をもつコンテンツの制作にVICE Japanは力を入れているらしい。
なるほど、わかりましたわかりました!わたしの記事も公益性のあるものになるよう、インタビュアーを全うします!
自分で言うのもなんだが、わたしは割となんでも頑張る人間である。ただ時としてその頑張りがズレていることがあり、そしてそのズレに気づくのはだいたい1年くらいたってからである。
さらに、はきはきとインタビューに答えられるようチューヤンに似た彼氏にお願いをして、インタビューの練習も行った。
さぁこれで準備は万端だ!待ってろVICE Japan がんばるぞー!

当日。

仕事終了後、歯ブラシとフロスと職場にあったみかんをリュックに詰めて北参道にあるVICEに向かっていた。

(歯ブラシとフロスは喋ることがなくなったら使おう。歯ブラシの選び方やフロスの使い方は公益性もあるし!みかんは夜食にプレゼントしよう。3個で足りるかな。あぁ緊張するなぁ。)

わたしは緊張と不安と公益性とみかんを背負って地下鉄に乗った。
VICE Japan は北参道から徒歩5分くらいのところにある。
地図の読めないわたしがGoogleマップを駆使しながらたどり着いた先には、白い壁が印象的な三階建ての建物。建物の周りにはお洒落な自転車があちこちに雑に立てかけられていた。このお洒落な建物、もともとはミハラヤスヒロがアトリエか何かに使っていたらしい(わたし調べ)

「この建物一階が底冷えして寒いんだよね。わたし、知ってる。(インタビュー読み込んだから)」

すると男の子人が白い建物のドアを開けてガチャンと中に入っていく姿が見えた。

あ、あそこから入るのか!今人が入ったから間を空けずわたしも入ろう。
小さな白い扉をノックし、ガチャっと扉を開けた。

「すみません。。」

弱々しい声で恐る恐る中を覗くと、

全員が一斉にこちらを向いていた。

(こ、怖い....!)

「はい?」

ヒゲモジャの熊みたいな男の人が立ち上がって、のそのそとこちらへ歩いてきた。

「あの、わたしインタビュー企画で8時半からお約束している者ですが....」

「あぁ、はいはい。そこの椅子にかけて待っててください。」

と言って、熊みたいな男の人は持ち場に戻っていった。

わたしは黒いソファーに腰をかけてキョロキョロしていた。天井がとても高く開放的な建物。なるほど、これじゃ温まらないよね。
二階に続く階段に沿って写真集や本がずらっと並ぶ。めちゃめちゃお洒落であった。
こんな素敵なところが職場だったらいいのに。
憧れのVICE Japanに感激していると

「どうもお待たせしました。」

先程の熊さんとは打って変わって、細く華奢な男性が笑顔でこちらにやってきた。

「さとみこんこんさんですね!はじめまして!今日はよろしくお願いします。さとみこんこんさん、あちらの入り口から入ってきた人はあなたが初めてですよ。」

ん?

「あれ従業員用の裏口だから。」

な!

一斉に浴びたあの視線は従業員口から挙動不審な女が入ってきたからであった。

「す、すみません。入り口がわからなくて人が入っていったところから入ってしまいました。」

「全然、いいんですよー。」

「僕担当する編集の小林です。」

よろしく、と名刺を渡された。

すると、今度はメガネをかけたマッシュルームヘアーの若者が名刺を差し出し、

「編集アシスタントのくんぺいです。よろしくお願いします。」


!!?!

くんぺい君!

「え?え?くんぺい君?くんぺい君ってあの!」

「あ、そうそう、くんぺい。くんぺい初めてじゃない?こうやって声かけてくれた子。」

はいー。とくんぺい君はニコニコしていた。

「くんぺい君のインタビューが強烈すぎて
わたし、人のインタビュー読むのやめましたもん。」

「あはは!面白かったでしょー。俺も面白いなと思って、スカウトしちゃったの。くんぺいはその時はまだ八百屋で働いてたんだもんなー!」

ねー。というようにくんぺい君に話しかける小林さん。

くんぺい君すごい。VICEからスカウトされるなんて。

「でもこうやって声かけられて嬉しいでしょくんぺいー!ちょっとさとみこんこんさんに惚れちゃったでしょー。」

「はいー。」

みんなニコニコしてなんだか和やか空間が漂うVICE Japan。

「さとみこんこんさん何か飲みます?コーヒーとか紅茶とか。」

「あ、ありがとうございます。ではコーヒーを。」

「くんぺい、コーヒー買ってきて!」

はいー!と言って、パタパタ走りながらくんぺい君は外へ出かけていった。

「今日はお仕事の後にありがとうございます。急ですみませんね。」

「いえいえ。サクサク決まったので...やりたい人がいないのかなって。」

「ちょっと(笑)!何いってるんですか!この企画、人気企画なんですよ、倍率100倍くらいありますよ!」

!!?!

ラッキーじゃんか!
1000分の3の確率で重度側湾症になったり、100分の1の確率でVICEのインタビューアーになったり、30分の1の確率で爪切男氏のトークショー小野真弓の写真集が当たったり、わたしは割と当選率が高い。

「失礼しました。あの...何故わたしを...」

「んーと。なんで応募してくれたのかよくわからなかったからです。応募の段階で自分のことをたくさん語ってくれる人が結構いらっしゃるのですが、それだとここに来てお話する意味もなくなっちゃうっていうか。」

「そうですか。」

ここで学んだことは、自分のことを語りすぎるのも良くないんだなということであった。そしてその教えはこのブログでは全く生かされていない。

「買ってきましたー!」

両手にコーヒーを持ってパタパタ走りながらくんぺい君は戻ってきた。

そしてくんぺい君からどうぞといってコーヒーを手渡され、ありがとうございますとわたしは言った。
そしてくんぺい君は、お尻のポケットからミルクとお砂糖を取り出してわたしのコーヒーの横にちょこんと並べてくれた。

「ちょっとくんぺい!レディーに渡すのにお尻のポケットにミルクを入れてこない!」

ごめんなさいね。と小林さんがわたしに誤った。

くんぺい君はすみませんといってぺこりと頭を下げた。

わたしは、全然気にしませんといってヘラヘラしていた。

こんな雰囲気でインタビューは始まった。小林さん、くんぺい君、カメラマンの宮本さんとわたしの4人で雑談をするような形でインタビューは進んだ。

子供の頃のはなし、学生時代、初恋の話、恐れていた下ネタをやんわり交わして、仕事のはなし、彼氏のチューヤンの話、そして、今後の抱負。

「さとみこんこんさん、最後に今後の目標がありましたらどうぞ!」

「医療費の削減です!」(公益性を意識した返答)

「...いきなり何いってるんですか?さとみこんこんさん政治家ですか?国に対して言ってるんですか?」

「はい。医療費の削減に寄与したいのです。国民に予防に意識を持ってもらい、医療費を削減させたいのです。そのためにわたしはここでフロスの使用を勧めます。」

「...........。どうぞ。」

といってわたしはくんぺい君と、カメラマンの宮本さんにフロス指導をした。

フロスをして、うわーきたねーとくんぺい君。

これ、俺やります!と言ってくれた宮本さん。

フロスを輪っかにしてちゃんと歯に巻きつけて!!そうそこで歯に擦り付ける!
と熱血指導をするわたし。

その様子を小林さんはニコニコしながら見守っていた。

そして最後に背負ってきたみかんを3人にプレゼントした。

よく見たらみかんにカビが生えていた。

「あ!!すみません!このみかんカビが生えてる!すみません!」

「カビくらい大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

みかんのカビにも寛大なVICE Japan

わたしはさらにVICEのファンになったのであった。

こうしてインタビューは終了し、正しい出入り口まで3人に見送られ、わたしはVICE Japanを後にした。
公益性を意識したインタビューにもなったし、大満足であった。

そしてこの時の記事はFLOSS OR DIE というタイトルをつけてもらい、2017年の1月にVICEのウェブサイトで公開となった。わたしは自分がVICEに出ている姿をみて、なんだか不思議な気持ちになったのであった。


***

記事が公開した3日後。

わたしは鬱になっていた。

記事がアップされて、燃え尽き症候群になったようである。
またVICEで自分を語ったことで、自分は今まで適当に生きすぎてきたんじゃないだろうか?
と三十路を目前に自分の人生に不安を持つようになってしまったのだ。

歯科衛生士になったのも親が進めるからそーお?と言ってなってしまい、就職先も東京までの定期が欲しかったという理由で決めてしまい、仕事は嫌いじゃないけど熱中するほどでもないし、だからといって特にやりたいこともないし、これといって夢もないし、なんかやりたいなーと思って今まで習い事を5つくらいやってきたけどだいたい1年くらいで全部やめたし。

....わたしって一体。なにがしたいの。

就活中の大学生のような悩みでわたしは落ち込んだ。

VICEの他のインタビュアーの記事は、何かしら目的や夢を持って活動しているようだった。インタビュー時は特に夢などもなさそうなくんぺい君だって、今はVICEで生き生きと働いていている。

わたしはこのまま適当にダラダラ生きてていいのだろうか。
でもやりたいことなんて特にないし。

三十路になって初めて自分がやりたいことについて考えたのであった。好きな物や興味のあることをノートに書き出してはあーだこーだ考えて唸っていた。
そしてわたしが行き着いた答えは、




わたしもVICEで働きたい!

であった。

あんなお洒落な空間でかっこいいメディアに携われたら最高!

自分でいうのも何だが、わたしは単純で影響を受けやすく、ミーハーである。
そして1年くらいたってからあの時の自分バカだなと、はたと気づくことが多い。

そもそもVICEで求人しているのだろうか。
ホームページで求人を確認すると、即戦力のある人を求めていると記載があった。
それ以外で働きたい場合は、インターンという形でアシスタントの仕事をするようであった。

「つまり武者修行ってわけか。絶対的に戦力にはならないから、雇って欲しけりゃアシスタントってことだな。うーん。
貯金を切り崩せば2年くらいなんとかいけるだろう。服もしばらくは買えないだろうし、飲みにも行けなくなるな。まぁしょうがない。」

覚悟を決めた次に、わたしは少しでも役に立つ人間になるよう、勉強することにした。

「やっぱりメディアなんだから言葉をしらないとだめだよね、英語はまず無理だから、頑張って日本語力を高めよう。」

その頃ちょうど腐女子のつづ井さん1を読んでいるときで、つづ井さんが語彙を鍛えるためにラップを作る回を読んでいた。もちろん、影響の受けやすいわたしもラップ作りで語彙の強化に努めた。

「メガネ先輩!わたし今語彙力の強化のためにラップを作って語彙を極めているの。これからラインの返信は全部韻を踏んで返すからね!」

「....了解。」

友人のメガネ先輩にも宣言をし、わたしはこの日からラップを作り始め、極力韻を踏んだ。
そしてチューヤン似の彼氏にも、ラップが完成する度にラップを聞かせていた。チューヤンは上手上手と聞いてくれた。

また、チューヤンに「ラッパーはみんな辞書を持っているらしい。」
と言われれば、辞書を買いにジュンク堂に行った。しかし辞書も色々あり、どれを買ったらいいのか悩んだ挙句サンキュータツオの辞書の選び方という本を買ってしまい、辞書選びの勉強も始めるようになった。

(辞書も奥が深いなぁ。ほんと人生って日々勉強だな。ラップも作らなきゃいけないし。)
目標を見つけたわたしは奮起していた。

そんなある日、相変わらずラップづくりと辞書の勉強に精をだすわたしにチューヤンが表情を変えずにこう言った。

「あのさ。ラップもいいけどさ、本当にVICEで働くつもりなの?」

「そうだよ、わたしは本気だよ。」

「あのさ、本気ならやり方間違えてない?本気ならさ、編集の人にはやく連絡しなよ。どんな仕事内容なのか、とりわけ不足してる部署はあるのか聞いてみなよ。」

「何言ってんの?そんなの迷惑だよ!小林さんは忙しいの!」

「え?よく考えて。そんなこと言ったら面接官にも迷惑になるから面接受けれないってことになるよ?あっちだって求人が欲しいから出してるんだよ?本当に探してたら答えてくれると思うけど?しかもあなた内部の人と面識があるのに、そこを使わないでどうするのよ。」

「えー恥ずかしい」

「何言ってんのあんな顔出ししてインタビューでてるくせに。」

相変わらず表情を変えずにチューヤンはわたしを諭した。

チューヤンに後押しをされ、わたしは小林さんに、胸の内をメールで送ってみることにした。

実は歯科衛生士をやめてVICEで働きたいと思っていること、入ってどんな仕事をするのか、とりわけ人がいない部署があるのか、やる気は十分だけど、歯科衛生士として働いてきたわたしにできることがあるのか悩んでいるのでヒントが欲しい。

というような内容をメールした。

すると、

「ご興味を持っていただき本当にありがとうございます。求人してますよ!詳細は以下です。
でも、アシスタントは「若い奴!やる気のみ!」みたいなほぼ無給のインターンスタイルです。
なのでさとみこんこんさん、将来のこともよーく考えて、チューヤンとよーくお話されて考えたほうがいいですよ。
わからないことはどんどん聞いてください!」

と、小林さんから返信がきた。

優しい。


優しいよーーーーー。


わたしは涙を浮かべて感動した。

VICE優しいよーーー!

そしてなんでも聞いていいよという優しい小林さんに、一体いつまでアシスタントなんでしょうか、勤務時間は?など心配に思っていることを返信した。


翌日

「さとみこんこんさん。ちょっと人事の人に確認してみたのですが、季節柄もう一杯ですとのことでした。せっかくご興味もってくれたのにすみません。でもでも今後ともお付き合いくださいませー!季節の変わり目です。お体に気をつけて。」


完。


え?終わっちゃった!わたしの就活終わった!!

返信のメールからこいつ覚悟ねーぞというのがバレてしまったようだった。

「終わったーーーー!」

三十路は就活に失敗して泣いた。

「残念だったね。でも良かったじゃんはっきりして。」

ドンマイとわたしに声をかけたチューヤンの表情は相変わらず変わらなかった。

「VICEで働くことが決まったら自転車通勤だって思って、自転車で北参道まで行く道のり調べてたのに...。」

「諦めよう。」

「ママチャリじゃかっこ悪いから新しい自転車買おうって思ってたのに。」

「....新しいの買えば?」


「先輩に仕事やめようかと思ってますって今日言っちゃったのに。」


「.........。」

チューヤンの表情は相変わらず変わらなかったが、変わらないかわりに何も言わずこちらをジッと見ていた。

危うく職なしになりそうな場面に遭遇しつつも、翌日主任でもある先輩にわたしは謝り、残留に成功。今もその職場で元気に働いている。

VICEで働く夢は叶わなかったが、

「メディアを自分で作ったらどうだろうか。VICEみたいな公益性を意識したメディアを。あと今までの経験が活かせるものにしてみよう。」

ということで、誕生したのがフロスの情報サイト「FLOSS OR DIE」である。VICEでつけてもらった記事の名前をそのまま(勝手に)受け継ぐ気持ちでこのサイト名に決めた。

さらに、

「わたしの記事人気ない!くやしい!苦労してるのに!何がいけないんだ、反省会開いてください!社長!」

「色々言わなくていいので次の記事を書いてください。」

雇ってくれる媒体にも巡り会い、ますます忙しい毎日である。本当に忙しい、だけど楽しい。日々勉強だ。武者修行だ。
まさか自分が、おはようからおやすみまで文章を書くようになるほどハマるとは思わず、人生は色々やってみるもんだと思った次第である。これからもヤリマンの如くいろんなことに突撃して行こう思う。

そして願わくば....どうか1年後、書くことに飽きていませんように!

わたしは自分に祈りを捧げている。