諦めずに啜ってください。

わたしの通っていた高校には学食があった。メニューはそこそこあって、鳥の唐揚げ丼やオムそばが好評で、あとラーメンとかうどんなどがあった。
お昼の時間は学生達が席の取り合いになるほど母校の学食は人気だった。

わたしは基本お弁当を持ってきていたので、滅多に学食は利用しなかったのだが、お弁当を食べ終わった後、学食にアイスを買いに行ったり、学食で食べてる友達にちょっかいをかけにいったりしていた。

その時もお弁当を食べ終わった後、3人くらいで学食にいる友達のところにちょっかいをかけにいったのだった。

そのちょっかいをかけに行った友達というのがえらい美人で、鈴木亜美にも、柴咲コウにも、戸田恵梨香にも似ているとにかく美人な友人で、校内のミスコンにも選ばれていた。
さらにプロポーションも良くSっぽいときたもんだからまぁモテた。

そんな美人に会いに学食に向かうと、美人はうどんを食べていた。
たしかわかめうどんだったと思う。
そんな美人のとなりに、うるさくて有名だった友人が鳥の唐揚げ丼を食べていた。

存在もうるさかった彼女は、授業中に当時分厚いフリーペーパーであった、「ホットペッパー」でエクステの安い店を探しているところを先生に取り押さえられ、机ごと廊下に引きずり出されていた。その時の心情を「静かにホットペッパー読んでただけなのになんであそこまでされたんだ?」と語っていたが、たぶん存在がうるさかったからだと思う。
また他の授業でもカンニングをしていると濡れ衣を着せられ、やっぱりその時も廊下に引きずり出されていた。「わたしはカンニングをしていなかったのになんであそこまでされたんだ?」と語っていたが、やっぱり存在がうるさいことが原因だと思われる。

そんな何かと目立つ2人が仲良くお昼を食べていたのだったが、
少しお昼の時間からずれていたこともあり、いつも混み合っている学食はめずらしく空いていた。
お昼を済ませた我々3人は、空いている席に座り、食べている2人の周りを囲んでダラダラと喋っていた。

すると存在のうるさい友人が、美人の友人に

「ねぇ、ちょっとうどん食べさせてよ。」

と、うどんちょうだい とねだったのであった。
美人はいいよ。と、うどんのどんぶりを存在のうるさい友人に渡し、それと引き換えに鳥から丼のどんぶりを受け取ったのだった。

美人は鳥から丼を食べ、存在のうるさい友人はわかめうどんをすすった。

そして咀嚼した。

「美味しい〜!」

と存在のうるさい友人は満足そうに言ってうどんを返そうとした。


すると、美人が

「....ねぇ。いまさ、うどんきったでしょ。噛み切ったでしょ?」


美人は和やかなランチタイムに一石を投じるような言葉を発したのだった。

みんな一瞬何を言っているのかわからず、
美人以外の反応は

「???」

だった。

すると美人は先ほどと変わらぬテンションで、

「だから、うどん!麺!途中できったでしょ!」

存在のうるさい友人は、たしかにきったので

「....うん。」

と弱々しく答えた。

ちょっかいをかけにきたはずだった3人のギャラリーは「ごくり」と息を飲んだ。

「だから、きれた麺が残るじゃん!中途半端にきれた麺がスープの中に残るじゃん!残るでしょ?」

「で?」と思ってしまったが、美人をこれ以上ヒステリックグラマーにさせてはいかんと思って黙っていた。

「嫌でしょ!細かい麺が残ったうどん!嫌じゃないの?」

信じられない!といった具合で美人はうどんを自分の方へと引き寄せた。

「ごめんね。。」

存在のうるさい友人は、とても静かであった。
うどんの食べ方を美人に怒られ、しゅん。とした友人の姿は可哀想としか言いようがなかった。

そしてギャラリーの1人だったわたしも怒られたような気分になったのだった。


あまりにも衝撃的だったこの出来事。その日の夕方、当時の彼氏であった たっちゃんにわたしは一部始終説明をした。

するとたっちゃんは、

「そりゃ怒られるよ。俺もきれた麺が残ったうどん、食べるのやだもん。」

!!!?!!


うどんを途中できっちゃいけないんですか?

ラーメンも?そばも?フォーも?

一本うどんは?

目からウロコのカルチャーショック。

そして、その日から私は決心したのだった。
絶対に麺類を食べたときは切るもんかと!

熱かろうが苦しかろうがわたしは麺類を啜りきることを決意した。
途中苦しいこともある。特にラーメン。啜っている途中で熱くて噛み切ってしまいたくなることもある。火傷をしたこともあった。
切っちゃおうかな。と、くじけそうになったこともあるけど、そんな時は決まって美人の顔が浮かぶ。そしてこう問われるのだ。

「細かくなった麺、残るの嫌じゃないの?」

だから、啜る。何が何でも啜る。無理なときは麺を咥えたまま、一旦休憩して、また啜る。
そうして完食しきったどんぶりを見たとき、なんとも清々しい気分になるのだ。あのとき辛かったけど、頑張って啜ってよかったなぁ。って。

そう。これは人生。麺を切らずに啜りきることは人生そのもの。

わたしはそう思うのです。よ。皆さん!



皆さん!

皆さんも明日から是非どうぞ!