ケリーちゃんとラブホで寝た正月

わたしにはケリーちゃんというカナダ在住の友人がいる。


ケリーちゃんとの出会いは6年前の友達と行った初詣だった。

ケリーちゃんは高校の同級生の友達だ。
カナダからその同級生の家に遊びにきていたケリーちゃん。日本でのお正月を体験することを楽しみにしていたようで、初詣も一緒に行きたいと友達にくっついて来たのだった。

ケリーちゃんはチャイニーズ系カナダ人なので一見日本人に見えるが、日本語はほとんど喋れなかった。
喋れる日本語は「こんにちは」「おいしい」「ありがとう」「カワイイ」「カッコイイ」「マツジュン」くらいであった。

ケリーちゃんは松潤が大好きで、花より団子の松潤を見てから大ファンになったそうだ。
なので「マツジュン カッコイイ〜」とよく連呼していた。マツジュンみたいな日本人の彼氏を探しているのとはりきっている姿が可愛かった。

とても可愛らしくて人懐っこいケリーちゃん。わたしは英語が話せないので、ほとんど友達に通訳をしてもらって会話をしていたのだが、ケリーちゃんとの会話は楽しく、わたしはケリーちゃんのことが大好きになった。

その日はみんなでお参りをして、ちょっとおしゃべりをし、日が暮れる頃には解散となった。


その夜。

知人から突然の連絡が入った。
「明日、ヴェルディのクラブユース時代の新年会があるんだけど来れない?3人くらいで来てくれないかな?」

おっ!優良案件!?行きます行きます。

新年早々景気の良いお誘いではないか!
わたしは二つ返事で快諾し、すぐに連れて行く仲間のことを考えた。

あぁ。そういえばケリーちゃんはマツジュンを探してたよなぁ。日本の新年会もなかなか味わえないだろうし喜ぶかも!

わたしはすぐに友人に電話をし、優良案件があるぞ、マツジュンもいるかもと話をした。すると、
「ごめんー!私はもう明日予定が入っちゃってて...でもケリーが乗り気で暇してるからケリーのことだけ連れてってくれないかな?」
と申し訳なさそうに友人は言った。

いいけど....大丈夫だろうか。わたしは英語を話せないし、ケリーちゃんは日本語を話せない。それなのに参加をする某クラブチームの新年会。
でも語学力が養われていいかも!と思った私は友人のお願いに任せて。と答えた。

こうして日本のお正月の過ごし方を知りたがっている外国人ケリーちゃんと私は、某有名クラブユース時代の新年会というものに参加することになった。

まだ1人分の枠が空いていたので、可愛いギャルの後輩を誘ってみることにした。すると、
行きます。と彼女も二つ返事で快諾してくれた。埼玉出身のギャルは、フットワークが軽くて何かと便宜がいいので友達になっておくことをオススメしよう。

 新年会当日の夜。我々3人は神泉駅にいた。某クラブチーム新年会の場所は神泉駅から坂を下って、階段を降りた地下にあるラウンジを貸し切って行われていた。
店内は薄暗く、なんだかいやらしい雰囲気だった。

中に入るとだいたい20〜30名くらいの人がいて、男女比は3:2くらいであった。
参加者の女性は可愛い子ばかりで、みんなマカロンや綿あめみたいなふんわりした雰囲気の女の子ばかりであった。

中に入ってすぐ、可愛いギャルの後輩は男性からアプローチをされ我々と離れた場所へと移動していった。

あたりをキョロキョロ見回すと、マカロンみたいな女の子達の周りには男が1人ないし2、3人くっついていて盛り上がっている様子だった。

ケリーちゃんとわたしは、とりあえず座ってお酒を注文した。すると、すうっと男性が横に入って話しかけてきた。
日本人のような顔立ちのケリーちゃんは日本語で話しかけられていたので、わたしはその子はカナダ人で日本語はほぼわからないよ。と説明をした。
すると、「まだ来てないけど、これから英語がペラペラな奴がくるから紹介するよ!」と言って、男性はどこかへ消えてしまった。

英語を喋れる人がいるようでよかった。
おぼつかない英語のわたしとおしゃべりしててもケリーちゃんも楽しくないだろうし、マツジュンを見つけた時には通訳してもらわないと困るので、わたしは英語を話せる男が到着することを心待ちにした。

しばらくすると、出入り口のほうに人が集まってざわざわしだした。目を向けるとアフリカ系のハーフっぽい男が到着した様子だった。彼はEXILEのネスミスに似ていた。
ネスミスは首元のマフラーを外しながら、周囲と笑顔であいさつを交わし、座席の方へと歩いてきた。

英語が話せる男は彼に違いない、ケリーのために話しかけねば!
彼が着席したと同時にわたしは彼に近寄り、思い切って声をかけた。

「Can you speak English?」

「はっ?」

強い口調での はっ?
ネスミスのイラついたご様子が伺えた。
顔がネスミスだったので思わず英語で話しかけてしまった。
そんなわたしのミステイクで、キーパーソン・ネスミスの機嫌を損ねてしまったようだ。
Can you speak English?が癇に障ってしまったようだったが、言ってしまったことはしょうがないので、実はわたしの友達がカナダ人で日本語をあまり話せないのです。よかったらその子とお話しませんか。と今度は日本語で、おだやかに、低姿勢で説明をした。すると

「どこ?」

とネスミスはスタスタとケリーちゃんの元へと歩いていった。

そしてケリーに話しかけ、2人は流暢な英語で会話をしだした。
ペラペラと英語で話しをする2人に、みんなからの注目が集まった。
そしてネスミスの株は上がったのだった。

よかった。これでネスミスの機嫌も良くなるだろう。やれやれ。いやよかった。
変な汗をかいてしまったわたしは一人で酒を飲んだ。そしてはたと気づいた。何しにきてんだわたしは?


すると、すぅと私のとなりに人が座った。
ケリーだった。

「ねぇ。」
とわたしに声をかけた。
そして、

「わたし彼に興味ないんだけど。別にこの場で英語を話したくないんだけど。」 
と言った。(と思う。)

わたしは英語は話せないが、
彼女がイラついていることは、充分理解できた。
ネスミスの次はケリーをイラつかせてしまったのだった。
sorryとわたしは謝った。

そして彼女は続けた。

「ねぇ。ここにマツジュンはいないわ。」

彼女はNO MATSUJYUNと言っていた。
さらに続けて

「チャライ。」

これは日本語でポツリと言った。
チャライも知ってんのかと感心していたら、

「ねぇ。もう帰ろう。」

と疲れた表情でケリーは言った。
そうだね、そうだね、もう帰ろう!とケリーをなだめつつ帰ろうとしたときに、わたしは大切なことを思い出した。

後輩がいない。

連れてきた後輩が見当たらないのだ。可愛い後輩!どこ行った!
わたしがオロオロしていると、
「ねぇ。もう帰ろうよ。」
再びケリーはわたしに言った。
でも帰るにしても帰るよ。って声をかけないとと。ウェイトウェイトとケリーに言ってオロオロ後輩を探しているわたしを見て、ケリーはさらにこう言った。

「ねぇ。あなたの後輩、楽しそうだったわよ。」
ドントウォーリーとケリーは言ったのだった。

たしかに、男性と楽しそうにしている後輩の姿をわたしも数時間前に目撃していた。

楽しそうな後輩を見つけだし、その中を割って入るのも野暮だよなぁ。。と思い直したので、
後輩には引き続きよろしくやってもらうことにして、私はケリーと帰ることにした。帰るねとLINEは入れておいた。

我々はいやらしい店から出て、渋谷駅を目指して歩き始めた。

するとケリーが大きな声でOMG!と叫んだ。
どうしたの?と聞くと、

「友達宅の鍵を家に置いてきちゃった。ママやパパを起こすなんてできないわ。どうしよう。」

友達は実家暮らしだった。そして今日はその友達の帰りも遅いようだった。 
現在の時刻は夜の11:30で、ケリーが友達の家に着くにはあと1時間以上かかってしまうのだった。
するとケリーは
「ねぇ。今日一緒に泊まってくれない?」
とわたしに言った。

「この近く、ホテルがいっぱいあるみたいだし。」
ケリーちゃん、それはラブホだよと思いながら、そもそもカナダにはラブホテルの概念があるのかもわからず、説明するにもなんと英語で言おうかと思って黙っていた。

とにかくケリーちゃんを一人にするのも可愛そうなのでわたしはケリーちゃんと一緒に泊まることにした。ケリーちゃんは日本語で「ありがとう〜」と言った。

我々は疲れていたこともあって、そのへんのラブホテルに入ることにした。
女の子とラブホテルに入ることもないので妙に緊張した。ケリーちゃんはニコニコしていて、受付で鍵をもらう時も「ありがとう〜」と笑顔で受け取っていた。

部屋に向かって歩いていると、まさかの出来事が起きた。

消えた後輩が男性と手を繋いで現れたのだ。

後輩....

後輩はわたしに気づくと、
「さと姉〜〜!」 
と言って笑顔で手を振ってきた。

なにやってんだよ、先輩見てんだから隠れろよと思ったけど彼女が嬉しそうにわたしを呼んで手を振っていたので、つられてわたしも手を振り返してしまった。後輩と手を繋いだ男性は若干気まずそうにみえた。


助けてあげるべきなのか。でも喜んでたら野暮だしな。ていうか喜んでるよな。

とりあえずケリーと近くの部屋にいるから困ったら連絡するようにとLINEをした。

我々は部屋に入り、化粧を落とし各々お風呂に入り、寝る準備をした。
やれやれ、慌ただしかった1日が終わるぞ。
やや大きめのベッドにケリーちゃんと寝転がった。

だんだんと眠くなってきて目が閉じそうになったときに、ケリーちゃんがペラペラと英語で話してこっちを見てきた。
細くなってきた目をもう一度開け、なんと言ったのかわからなかったから、LINE英会話を駆使して懸命に翻訳してみた。すると

「昔女友達に誘われたことがあったのよね。」

という翻訳になってしまった。
わたしの翻訳はあってんのか?
確かめようにもどうしていいかわからないし、ケリーは真顔だし、どうしたもんかと悩んだ結果、

wow!hard memory !

と言ってみた。
ケリーちゃんはyeahと言っていた。

結局翻訳があってるのかあってないのか、なんと言ったのかわからずモヤモヤしながら寝た。

翌朝。

まず起きてLINEを確認すると、後輩からの返信は特になかった。
とりあえず後輩は無事ということにして、我々はお腹すいたよねと言って、早々にホテルから出てvironという美味しいパン屋さんでクロックムッシュとコーヒーを頼んで朝ごはんを食べた。
それからケリーのリクエストで109に行き、ケリーの爆買いに付き合い、ケリーのリクエストで昼に一蘭を食べ、まだ買い物をするというケリーを置いてわたしは埼玉へ帰った。
ずっと慣れない英語と慣れない環境で頭をフル回転で稼働していたため、疲れてヘトヘトになっていた。もう限界だ埼玉に帰してくれという心情だった。
帰り際ケリーはちょっとさみしそうだったけど、ありがとう〜とわたしに日本語でお礼を言ってくれ、ケリーとさよならをした。


それから1週間後、ケリーはカナダに帰国した。わたしは友達と一緒に成田空港までケリーを見送りに行った。
買い物のしすぎでスーツケースが日本に来た時よりも2つも増えてしまったケリー。どでかい3つのスーツケースをガラガラと器用に運び、出国ゲートで笑顔で手を振っていたケリーの様子は今でもよく覚えている。


優良案件と思われた新年会。ケリーにはマツジュンは見つけてあげることができなかったし、私はネスミスにCan you speak Englishと話したくらいしか人とコミニュケーションをとった記憶がなく、何の収穫も得られなかった新年会だったと思っていたのだが、

ケリーちゃんのことをブログで書くためにフェイスブックを振り返ってみると、ケリーちゃんとわたしが成田に向かう車の中で一緒に肩を組んで写った写真があった。そしてその写真に、「thank you for a lot of memories Kelly.」と書かれていた。短期間で随分とかぶれた自分を恥ずかしく思ったと同時に、ケリーちゃんと過ごした日々は本当に楽しい時間だったと改めて思い出したのだった。


ケリーちゃん、元気にやっているだろうか。



ちなみに後輩は元気でやっているようです。