女 1人飲み屋へ行く 【神保町編】

1人で飲み屋に入れる女に憧かれつつなかなか実行できずにいた。何故かというと、少しばかりの勇気がなくて暖簾が潜れない事とと、家で飲めば良いじゃんという思いが天秤にかかるからなのであった。

事実、家で飲むのが1番気兼ねない。コスパもいいし、好きな曲を聴いて、踊りたくなったら踊り、気まぐれにラジオを聴き、好きな歌をアカペラしたっていいし、寝たくなれば寝ればいいわけだ。それをするには家では全て可能。


だからわざわざ1人で店に入らなくたっていいじゃん。飲んで踊りたくなっても踊れないし。


けれど、やっぱり憧れもあった。1人お気に入りの飲み屋で酔いしれる自分に。

食べたいものを注文し、飲みたいお酒を飲み、緩やかな時間を過ごしてお会計!と言うサクッとした身のこなし..so cool 。いいね。

さらに適度に人肌を感じたいという場合は個人的にはコの字カウンターをオススメする。

基本的にコの時カウンターを設けている店はガラガラのスカスカということがないように思う。コノ字カウンターは適度に席が埋まっていて、人肌温もりを感じることができる。また、コの字カウンターを好んで来る輩は、知らない人の顔で一杯飲めるという酒好き変人の集まりなんだと思っている。事実わたしもそうなのだ。知らない人だけど酒好きがニヤニヤして飲んでいる。そこには皆でコの字を囲む一体感と、安穏を感じる。

ときに臨場感あふれる緊迫した面持ちに巡り合っても人間味を感じそれもまた良し、と思うのだ。

何をしようがどんな装いや振る舞いであろうが、コノ字カウンターの住民は全て受け入れてくれる。という勝手な妄想の中、先日、1人でコの字カウンターデビューを果たし、わたしは大人の階段を第一歩を踏み出したのであった。


◆2018年 1月26日 :神保町にあるコの字カウンターの店。寒空の下女1人来店


5時開店の創業70年兵六というコノ字カウンターの店へ訪れた。姉や友人とは何度か訪れているこのお店。ふらっと1人でも入れるようになりたいと前から思っていたのだ。

この日は晩御飯を作る予定があったので、17:00~18:00までの1時間でサクッと飲んで店を出る!という明確な目標を胸に訪れた。

オロオロと暖簾越しで店内の様子を見回していると、コの字カウンターの番頭さん(コの字カウンターの真ん中で客の注文や会計を切り盛りしてる人。)がどうぞこちらにとスムーズにコの字カウンターの角へと案内してくれた。

左隣は紳士なおじ様二人組、右隣は同じ会社の男女2人といった具合だった。今日は静かな時間を過ごせそうだ。

着席してわたしは麦焼酎をお願いした。


この店は、鹿児島がルーツで、多くのお客に美味しい焼酎を飲んでもらいたい。という店主の願いから、店においてある酒の種類の中では焼酎が1番安く、飲み方も店主のおススメの飲み方しかできないのであった。

麦焼酎を頼むときは冷やしたストレートだ。

麦焼酎がこぼれんばかりに並々とコップに注がれる。慎重にグラスを口に運びそろりと飲んだが、飲み方が下手くそで机にこぼれてしまった。味は甘くてキリリとしていて美味しい。

わたしはからし和えを注文した。


からし和えを待っているとふらりと若い女性が1人入ってきた。彼女はわたしの3つどなりのコの字カウンターへと案内されたのだった。

若くて美人でおしゃれな彼女。黒髪のボブスタイルが良く似合っていた。

有名人でいうと...藤原ヒロシの元カノに似ている。あの、幼少の頃からごはんを毎日記録していたという彼女に似ていた。

美人な彼女は熱燗を頼んでいた。そうしてカウンターの上の大皿に並ぶさつま揚げを見つめて、これもください。と注文をした。


彼女が注文したさつまあげも美味そうだなと眺めていると、わたしが注文したからしえがお待ちどう様という言葉とともにやってきた。

藍色の器が美しい。からし和えだから菜の花かな?と思っていたら炒めたセロリや豚肉、もやしなどがからしと和えてあり非常に美味しかった。

うまーっと少量ずつちびちびとからし和えをいただきながら、キリリとした焼酎を飲む。最高。

ふと、美人な彼女の様子が気になって横目でちらりと見てみた。

彼女はまばたきもせず、壁の方を一点を見つめていた。何もせずに、ただ見つめていた。


わたしは、彼女のようにじっと見つめているだけではなんだか落ち着かないので、購入した本を取り出し読むことにし、追加で三色卵焼きと、焼酎のおかわりを注文した。

三色卵焼きってどんな色をしているのだろう

と三色卵焼きに思いを巡らせていたら、お待ちどう様と卵焼きと焼酎がすぐにわたしの元へとやってきた。

プレーンの卵焼き、小ねぎの入った緑の卵焼き、カニカマの入った赤い卵焼き。卵焼きなのに形がパウンドケーキみたい。プレーンの卵焼きは甘い味で美味しかった。甘い卵焼きが好物なわたしはコの字カウンターの片隅でニヤニヤしながら頬張っていた。

そしてまた並々と注がれた焼酎を慎重に口元に運んで飲んだ。今度はこぼすことはなかった。


そうして気になるのは美人な彼女のことだった。

再度彼女のことを横目でちらりと見てみると、お猪口を持ったまま壁の方をまばたきもせずにじっと見ていた。まだ、壁を見つめていたのだ。かれこれ30分は壁を見ているんじゃないだろうか。


壁に何かかかってるのか?と思って壁を見たが、お品書きと書道の掛け軸が飾ってあるだけで、特にじっと見つめるようなものはないように思えた。


焼酎をちびちび飲んで本を読んでいるとあっという間に6時まであと10分となっていた。

緩やかに過ごしていたけど時間が経つのは早いのね。と名残惜しさを感じていると

すみません。お会計お願いします。と彼女が番頭さんに声をかけた。

彼女は小一時間ほど酒場で熱燗とさつま揚げを頼み、じっと壁を見つめ、颯爽と帰っていった。か、かっこいい!

今度もし彼女にまた会えたら話しかけてみよう。できればお友達になりたい。


そうしてわたしも、彼女の後に続くようにすみません。お会計お願いします。といって席を立った。

帰り際番頭さんに、

「お強いんですね。涼しい顔してすうっと2杯も飲んでるから驚いちゃいました。」

わたしは番頭さんにニコっとして店をでた。できる限りクールに店を立ち去るよう心がけ、しばらくはキリッとした姿勢で足早に歩いた。


そして少し店から離れると、酒が強いと褒められたことが嬉しくてニヤニヤしながらふらふらと速度を緩めて歩いて帰るのであった。



今日わたしは1人で飲み屋にいった。果たして理想のかっこいい女に近づけたのだろうか。

女1人飲み屋巡りは続く。